株式会社ファーストリテイリング/ユニクロ
UNIQLO(SINGAPORE)PTE.LTD.
マネージング・ダイレクター 小野口 悟



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大学卒業後、新卒で1996年3月、㈱ファーストリテイリングに店長候補として入社。
入社半年後に店長に昇格、その後は、2年間で4店舗の店長として実績を挙げ、1998年の秋には都心店一号店となる原宿店の店長に抜擢される。その後、スーパーバイザー、ユニクロ大学、ブロックリーダーを担当。2008年6月 海外事業部に異動し、シンガポール立上げの責任者となり、シンガポール1号店オープンの成功に導き、現在に至る。

僕にとって仕事とは、人生そのものです。
会社と人生を共にすることに迷いはありません


自分は一生店長のままなのか?悩むこと自体がつらくなり、辞表を出しました

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Q:小野口さんは’96年の新卒採用でファーストリテイリング(以下:FR)に入社されました。
なぜ、FRだったのでしょうか?

小野口氏(以下O):僕が大学生の頃はちょうど就職氷河期で、それでも周りの友人達は積極的に就職活動をして内定をもらっていましたが、僕は将来の不安を抱えながらも、夢も目標も持てず、自分は何をしたいのだろうと考えているだけで行動できずにいました。
そんな僕を心配してくれた友人からある日、企業の合同説明会に誘われて、半ば強引に連れて行かれました。
その説明会に出展していた企業の中の1つがFRでした。FR以外の企業は有名企業ばかりで、知らなかったのは、FRだけでした。他の企業は、さすが大手企業という感じで、人事制度や処遇などの内容もしっかりしていて、とても素晴らしいプレゼンテーションをされていましたが、FRのプレゼンテーションは、「完全実力主義で、頑張り次第で誰でも店長になれる」という強烈なメッセージがあり、他の企業と全く性質が違う雰囲気が漂っていて、興味が沸いたので受けてみようと思いました。受けたのはFR1社だけです。
自分が今後どういう人生を送るのかとても不安だったときに、FRのそのシンプルなメッセージが一番心に響きました。それが入社を決めた大きな理由です。

Q:入社をされてから半年間という早さで店長になられましたが、入社当時はいかがでしたか?

O:もちろん店長を目指して入社したので、店長に昇格した時は、本当に嬉しかったです。でも、入社してから店長になるまでのたった半年の間に、いろいろな壁にぶつかり、その経験が、店長になれる近道だったような気がします。入社して1ヶ月くらいはマニュアルを見ながら、それを忠実にこなすことが仕事だとやっていたのですが、最初に配属になった店は、人のマネジメントや店舗オペレーションの問題で、売上も店舗環境も、よくないムードが漂っているお店で、それこそ、スタッフが全員辞めようとしているような状況でした。
社員として何をするべきか、どうしたらスタッフのモチベーションが上がるかということを毎日考えているうちに、店長になることも大切な目標ですが、それよりもなによりもこの店をもっと良くしたい!スタッフがもっとイキイキと働けるようなお店にしたい!と思うようになり、そのための改善策を寝ても覚めても考えて、行動し、結果を出したことが、結果的には短期間で店長になった近道だったと思います。



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Q:目標に描いていた店長になられてみて、いかがでしたか?

O:年末年始の繁忙期を迎える直前に店長になったので、忙しくて何も考える余裕がありませんでした。自分の店長としての運営能力が足りないのが原因なのですが、寝る間もありませんでした。でも、どんなに忙しくても、目の前にはお客様がいらっしゃって、スタッフがいて、商品がある。毎日時間通りにお店をオープンし、トラブルなくお客様にお買いものを楽しんでいただく。とにかく必死でした。今振り返ってみると、店長であるという責任感だけはあり、毎日がむしゃらでしたが、店舗マネジメントは何にもできていなかったように思います。

Q:そういうハードな勤務状況の中で、辞めたいと思ったことはなかったのですか?

O:その時は辞めたいと考える余裕もありませんでしたが、繁忙期が終了し、一息ついたときに、ただがむしゃらに目の前のことをこなしていただけに、「自分はこれからどうなっていくんだろう?」と急に不安になってきました。
一度考え出すと、どんどん心に暗雲が立ち込めてきて、将来の漠然とした不安、疲れ、どうすればいいかわからない実態のない悩み・・・その時が人生で一番悩んだ時期だったと思います。
店長で評価されれば、スーパーバイザー、そしてリーダーに昇格と、キャリアプランは見えていたのですが、その当時の自分は、お店のマネジメントだけで精一杯で、とても自分の力では店長以上の責任のある仕事は絶対にできない、無理だ、と思いこんでいました。店長になることを目標に夢を見て入社した自分でしたが、早期に店長を経験させてもらったことで、店長としての壁にも早くぶち当たることになり、目標を持てず、悪い方ばかりに考えるようになっていました。情けない話ですが、悩むこと自体がつらくなって耐え切れず、辞表を出しました。入社して一年後のことです。


「もし未練があるようだったらいつでも電話してこい」と言われて、すぐに電話しました(笑)

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O:辞表を提出してから色々な人が退職を思い直すようにと、話をしに来てくれましたが、僕も一度決めたことなので、意地になっていた部分もありました。そんなある日、僕が入社したときにスーパーバイザーだった先輩から急に電話が掛かってきて、「出張で、上京しているんだけど、ホテルがとれなかったからおまえの自宅に泊めてくれ。」と言われて、会うことになりました。
今思えば、僕と話をするためにわざわざ東京まで出てきてくれたのだと思います。けれども、その先輩は、退職について引き止めるようなことは一切言わず、
それよりも入社当時の仕事に燃えていた頃の僕の話などをしていました。そんな思い出話をしているうちに、だんだん「自分は、何に悩んでいるんだろう?」と思えてきて、嘘のように心の暗雲が消えていきました。
そして、その先輩が帰るときに、「もし、会社に未練があるようだったらいつでも電話してこい」と言ってくれたので、すぐに電話してしまいました(笑)。
先輩と話していくうちに、店長という責任ある仕事を任されたことでいっぱいいっぱいになって、お客様のため、スタッフのためと思い行動していた自分の喜びや夢が見えなくなっていたことに気付いたのだと思います。そして、後輩のために仲間のために、自分以上に忙しい時間を過ごしている先輩が、わざわざ上京までして自分の心を整理してくれてくれたことに感謝しました。



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Q:そして、引き続きFRで働くことを選択されて、その後、原宿店というまさに当時のFRの要と言われていたお店の店長を任されたわけですね。
原宿店を皮切りに、今のFRの成長があると言っても過言ではないと思いますが、当時の原宿店はどうでしたか?そういうお店の店長を任されている小野口さんへの周りの見方にも変化があったかと思いますが?

O:原宿店の店長になったときは、一度辞表を提出した自分に、このような大役を任せてもらうからには、成功させるしかないという気持ちでしたね。
フリースを中心におもしろいように商品が売れ、オープンから売り上げも順調でしたが、どんなに売れている店でも、昨日より今日を更に良くするためにはどうしたらいいか、どうすればお客様が喜んでくださるか、という原点に常に戻らなければ店舗運営はできない、商売の成功はないということをこのお店の店長を任されることで、学びました。


ユニクロが好きだというシンプルな気持ちを、これからもずっと大切にしていきたい

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Q:そうやってFRでさまざまな経験を積まれるうちに、より「商売」に関しての興味が沸いてきたのですか?

O:そうですね。正直、店長になったあとも、初めのころは商売の仕組みもよくわかっていなかったです。
お客様に満足いただきながら、利益を出していかなければならないという商売の基本を理解することなく、ただとりあえず言われたことをやっていた気がします。よかれと思って提案した施策を、ことごとく社長に却下されていたのですが、今、考えると経営感覚のない提案だったので、当然でした(笑)。
そういうことを繰り返しながら、経営感覚とお客様満足の両方のバランスを両立させなければ商売にはならないんだということを、少しずつ学んでいきました。

Q:現在は、ユニクロのシンガポール支社の社長をされていらっしゃいますが、社長業はいかがですか?

O:やはり、大きなプレッシャーが常にあります。
当たり前のことですが、お店単体の経営とは規模が違います。でも、商売の原点は、全てお店の経営であって、店長時代の経験が今、社長になって、すごく活かされていると思います。経験したことが、すべて今につながっています。責任の重さに怖さもありますが、更に大きな城を任せてもらえてとても充実しています。
シンガポールのお客様が、ユニクロの服を買うために列をつくり、楽しそうに買い物をしている姿を見ると、とても嬉しいですね。大変だと感じることがあっても、そういうことで報われています。早くシンガポールにユニクロがきて良かったと言ってもらえるような会社にしなきゃいけないなと思っています。



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Q:今後も、FRの中で生きていきたいと思われていますか?

O:はい。生涯FRで生きていきたいです。
そして、FRを世界一の会社にしたいと思っています。
アメリカ映画でよく、墓石に生前成し遂げたことが刻まれているシーンがありますが、あのように、僕は「世界のFRに貢献した男」と刻まれたいですね。
この会社と人生を共にすることに、迷いはありません。

Q:最後に、小野口さんにとって、仕事とは?

O:人生そのものです。
シンプルに、僕はやっぱりユニクロが好きなんです。
会社の精神も、商品も、働いている仲間も好きです。
入社後、一番苦しんで悩んだあの頃に、会社に助けてもらったという思いがありますし、あのときがなければ自分は本当にどうなっていたかわからない。あれから10年くらいは、会社に恩返しをしたいという感謝の気持ちだけでやってきました。その気持ちが、困難やつらいことよりも常に上回っていたと思います。
最近はその気持ちにプラスして、自分の仕事が社会貢献に繋がっていると感じることが多くなってきました。
これからもずっと、会社や、仕事や、お客様が好きだという、シンプルな気持ちを大切にしていきたいです。


日時:2009年5月21日(木)
形式:UNIQLO(SINGAPORE)PTE.LTD. 小野口氏・スピリッツ 河野 対談